ハシモトという男

妻の不倫と離婚の記録

ハシモトという男は、前の会社の後輩でした。
正確な年齢は記憶していませんが、たしか私より5歳ほど年下だったと思います。

彼は私とは異なる部署に配属されましたが、その部署の長は、あのタナカさんでした。
私が直接仕事を教える機会はそれほどありませんでしたが、小さな会社でしたので、
一緒に仕事をすることもあり、相談を受けることもありました。
当然、元妻も同じように、業務上ハシモトと会話をする機会があったようです。

ハシモトとは、共通の趣味がありました。
たとえば好きなマンガやゲームといった話題で盛り上がることが多く、
彼の同期メンバーと一緒に流行りのゲームをしたり、
ときには仕事帰りにラーメンを食べに行ったり、飲みに行くこともありました。

私にとっては、会社の中ではかなり親しい人間のひとりでした。
少なくとも、そう思っていました。
彼を含めた数人で、私たちが建て替えた新居に遊びに来たことさえあったのです。

また、彼は社内恋愛をしていました。
そのお相手は、元妻の部下だった女性です。
私自身も社内恋愛から結婚した身だったこともあり、
彼らの関係にはどこか共感を覚え、目をかけていました。
元妻もまた、そんな若い二人のことを応援しているように見えました。
もちろん、これはまだ私と元妻の関係が壊れる前の話です。

ただ、ハシモトには少し影のあるような一面もありました。
本心が見えづらく、表面上は穏やかでも、どこか不安を感じさせる雰囲気がありました。
派遣社員の女性や、彼の後に入社した新入社員の女性にもアプローチしていた──
そんな噂を耳にしたこともあります。

そんなハシモトが、私の妻と、仕事終わりに待ち合わせをして、
彼のアパートに二人きりでいたというのです。

そこで何があったのかは、誰にもわかりません。
冷静に考えれば、不倫関係を決定づける証拠はまだないということも理解できるはずでした。
ですが、そのときの私は、もう頭が真っ白になってしまっていました。

これまでどういう気持ちで私と一緒にいたのか。
私と妻の家に来たとき、どんなつもりだったのか。
そして、私のことをどういう目で見ていたのか。

彼が、心の中でずっと私を嘲笑っていたのではないか──
そんな想像ばかりが頭の中を支配し、冷静ではいられませんでした。

「今すぐ乗り込んで、ハシモトの胸ぐらを掴んで問い詰めてやりたい」
そんな衝動が湧き上がり、抑えるのに必死でした。

しかし、それでも私は出張中で、彼らの元へ行くことはできません。
怒りやストレスで胸がいっぱいになりながらも、
その距離があったからこそ、かろうじて理性を保てたのかもしれません。

仕事に集中しようと努力しながらも、心の中では感情の嵐が吹き荒れていました。
怒りと悔しさ、そして絶望と安堵が入り混じった、あの夜のことを、今でもはっきりと覚えています。

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