沈黙の証拠、確信の夜

妻の不倫と離婚の記録

スマホのロックが開いてしまったことに驚きながらも、私は迷わずLINEアプリを開きました。
ハシモトとどんなやり取りをしているのか——そこにすべての答えがあるはずだ。
見るのが怖い気持ちもありましたが、そこを確かめることが今の目的。私は震える指で操作を進めました。



しかし、そこで見つけたのは予想外の現実でした。
元妻とハシモトのトーク履歴には、大したやり取りが残されていなかったのです。
特に親密さを感じさせる内容はなく、証拠としては弱いものでした。がっかりした私は、「通話やSMSで連絡を取り合っているのかもしれないな」と思いながらも、念のため他の人物とのトーク履歴を確認していきました。

そして——
私はついに決定的な証拠を見つけました。

このラインより上のエリアが無料で表示されます。

その相手の名前を見た瞬間、心臓が跳ねました。
タナカ。
私の元上司であり、結婚式にも出席していた人物。
そう、あのタナカとのLINE履歴です。

そのやり取りは、今思い出しても吐き気がするような、気持ちの悪い内容でした。

たとえば、元妻が海外出張中のやりとり。
• 「声が聞きたい」
• 「いま話せる?」
• 「声が聞けてうれしかった。ありがと」
• 「シャワーシーンの動画送って」

そんな言葉が並び、さらにお互いを下の名前で呼び合っていたり、誕生日を祝い合っていたり……
もはや周囲の目が完全に見えていない、痛々しいカップルそのもの。
そこには、浮かれている二人のイチャイチャLINEが溢れていました。

私はその画面を見つめながら、怒りと呆れが入り混じったような感情を抱えていました。
そして、当初うっすらと予感していた「本命の不倫相手」がタナカであったことを、確信に変えました。
それと同時に、決定的な証拠をつかんだという達成感のような、妙な高揚感すらありました。

今振り返ると、当時の私は連日の疑念とストレスによって、すでにまともな精神状態ではなかったのかもしれません。
それでも、そのLINEを何としても証拠として残す必要があると判断し、私は自分のスマホで撮影を始めました。

「動画の方が良いか?」「時系列がわかるようにするには?」
そんなことを一瞬考えながらも、前後の流れがわかる範囲で数枚の写真を撮ることにしました。
ただ、シャッター音がとにかく気になる。
現実よりも何倍にも響いて聞こえるその音に神経をすり減らしながら、周囲の物音にも耳を澄ませ、元妻が戻ってこないかと警戒し続けました。

たぶん、実際には数分程度の出来事だったはずです。
けれど、その時間はとても長くもあり、同時に一瞬のようにも感じました。

私は数枚の写真を撮り終えると、スマホを元の位置に戻し、元妻が気づかないように慎重に整えました。
操作前と全く同じ状態に見えるよう、触れた角度や位置までも細かく確認しながら——。

そして私は、深く息をつきました。

ようやく、ここから確信を持って反撃ができる。
そう思うと、長いトンネルの先に、かすかな光が差し込んできたような気がして、わずかに前向きな気持ちが戻ってきたのです。

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