悪夢のような出張を終えたあと、私は何食わぬ顔で日常生活を続けていました。
どのようにして家の中で平静を装っていたのか、今ではあまり覚えていませんが、とにかく淡々と日常を繰り返していた記憶があります。
私が探偵さんに依頼した調査は、全3回のセットでした。
つまり、残りのチャンスはあと2回です。
ホテルから出てくる場面や外泊など、不貞の証拠を2回以上押さえるには明らかに回数が足りず、私は焦りを感じていました。
残りの2回をどのようなタイミングで調査したのか、正確には記憶していません。
確か、週末に私が遠出をした時だったか、あるいは当時趣味で続けていたマラソン大会に参加するために一日家を空けた時だったか。
いずれにしても、当てずっぽうで調査を仕掛けてみたものの、2回とも空振りに終わり、成果を得られなかったことだけははっきりと覚えています。
全ての調査が終了したタイミングで、私は再び探偵事務所を訪れました。
目的は、調査報告を聞くこと、手付金の残金を支払うこと、そして今後について相談することです。
あのアパートの一室のドアを開けると、今回も前回と同じ探偵さんがひとりで対応してくれました。
ちなみに、この探偵さんは「イチタニさん」というお名前です。
前回はヒーリング音楽が流れていましたが、今回は静かな空間で、淡々とまとめられたレポートをもとに調査結果の報告を受けました。
イチタニさんは、落ち着いた口調でその日の様子を説明してくれました。
その日、元妻は定時で仕事を終えたあと、会社近くの大型スーパーの駐車場に向かいました。
そこでしばらく車内で過ごした後、赤いスポーツカーが元妻の車の横につけられました。
彼女は迷わずその赤い車に乗り込み、そこからほど近い男のアパートへと向かい、二人で部屋に入る様子が、しっかりと写真に収められていました。
その後、イチタニさんから改めて確認がありました。
「この男は、知っている方ですか?」
私はすぐに答えました。
「はい。ハシモトユウタといいます。前に勤めていた会社の後輩です。」
良い関係だと思っていた人間の裏切り。
あまりの失望からなのか、それとも自分自身が情けなくなったからなのかはわかりませんが、私は自嘲するような、少し軽い口調で答えてしまったのをよく覚えています。
元妻はハシモトの部屋で数時間を過ごしたあと、ふたたびスーパーの駐車場までハシモトの車で送られ、自分の車で自宅へと帰っていきました。
報告を聞き終えた私は、こみ上げる怒りと悲しみ、そして情けなさに、気が狂いそうなほど動揺していました。
しかし、それでも前に進まなければなりません。
ここまで来た以上、もう引き返すことはできません。
初めから覚悟はしていたはずです。
私は、イチタニさんから問われるより先に、自ら追加の調査をお願いしました。