疑惑を確信に変えるには、プロの手を借りるしかない──。
そう腹を括ってから、数日間は探偵事務所の情報収集に明け暮れました。
全国展開している大手もあれば、地元密着型の中小事務所もある。正直、各社のホームページに書かれている内容は似たり寄ったりで、決定打には欠ける印象でした。
そんな中、私が選んだのは、地元で数店舗を展開している中堅の探偵事務所でした。
決め手は「相談無料」の明記と、料金表の明確な開示。そして何より、サイトが見やすく、変に煽るような表現が少なかった点に安心感を覚えたのです。
1時間1万円程度の料金設定と、複数のパックプラン。
もちろん鵜呑みにはできませんが、「話だけでも聞いてもらおう」と思わせるには十分でした。
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まさか人生で探偵に電話をする日が来るなんて、想像もしていませんでした。
仕事であれば、初対面の相手に電話をかけるのは日常茶飯事です。しかし、これは「自分の人生が大きく動くかもしれない相談」。携帯電話を持つ手にじんわりと汗がにじみました。
電話口に出たのは事務的ながらも丁寧な女性の声で、私の住む市には支店があるものの、常駐スタッフはいないとのこと。訪問には予約が必要だと告げられ、その場で平日の仕事終わりに訪問する約束を取りつけました。
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当日。仕事を早めに切り上げ、事前に調べておいた旧街道沿いの事務所へ向かいます。
大通りから一本奥まった静かな通り。目的の建物は小さなマンションの2階で、「探偵興信」と大きく書かれた看板が、やけに目を引きました。
建物前の駐車場は飲食店用らしく、少し離れたパチンコ店の駐車場に停めて良いとのことでした。
半信半疑でそこに車を停め、少し歩いて建物の裏手へ。飲食店の裏口を横切り、階段を上って2階の突き当たりにあるドアが、目的の探偵事務所でした。
呼び鈴を鳴らすと、スーツ姿で短髪(というよりほぼスキンヘッド)の、やや強面の男性が出迎えてくれました。彼が、担当の探偵・イチタニさんです。
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イチタニさんは丁寧な口調で私を迎え入れ、スリッパを出してくれました。
事務所内は6〜8畳ほどのフローリングに4人掛けのテーブルが置かれたシンプルな造りで、住居というよりは応接スペースに特化した雰囲気でした。
あいさつを交わし、名刺を受け取る。彼はオーディオのスイッチを入れて、ヒーリングミュージックのような音を流し始めました。少しでも相談者の緊張を和らげようとしてくれているのかもしれません。
席に着くと、まずは「どうされましたか」と促され、私はこれまでの状況を一つひとつ話しました。
・以前は妻と同じ会社に勤めていたこと
・義両親と同居していること
・妻の不審な外出
・ETC履歴から確実に嘘をついていると確信したこと
人に話すのは初めての内容でした。うまく話せたかどうかはわかりません。ただ、自分の中でずっと渦巻いていた疑念や不安を吐き出すことで、少しだけ気持ちが整理された気がしました。
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覚悟を問われる瞬間
一通り話し終えると、イチタニさんはこう切り出しました。
「もし奥さんが浮気していたとしたら、どうされますか?」
(ああ、これか。ネットで見たやつだ。)
「証拠をつかんで、相手に慰謝料を請求し、離婚します。」
これは即答できました。私はすでに、この先どう生きていくかの覚悟を決めていたのです。
イチタニさんは私の目を見て、静かにうなずきました。
「お話を伺った限りでは、奥さんが不倫をされている可能性は極めて高いです。覚悟ができているなら、調査をおすすめします。」
その後、過去の事例や調査方法、料金プランなどについて具体的な説明を受けました。