「やっぱり黒だった」
自分で仕掛けておいて、こう言うのもおかしい話ですが、
調査結果を聞いてショックを受けている自分がいました。
いざ証拠が出たらさっさと離婚してやり直そう。
そう思っていたはずなのに、実際に事実を突きつけられると
人間頭が真っ白になってしまうものなのだと痛感しました。
そんな私の混乱や葛藤をよそに、私を乗せたバスは淡路島を抜け、
鳴門海峡を渡って四国へ向かっていました。
そのとき、夕陽がちょうど海に沈む時間帯でした。
あんな状況だったのに、私はその夕陽がとても美しいと感じてしまいました。
なぜかは分かりません。
でも、その時の景色はいまでも目に焼き付いてはっきりと覚えています。
人間、本当にショックを受けた時は、風景の記憶すら深く残るものなのかもしれません。
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バスは目的のバス停へ到着し、私はバスを降りました。
迎えに来てもらう取引先に連絡を入れたあと迎えを待つ間、
少しだけ時間が空きました。
そわそわしていた私は、この間に探偵さんに電話をかけることにしました。
「もしもし。先ほどの連絡、確認しました」
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「はい。会社近くに住む若い男性と会っていました」
(え?会社近く……?タナカさんの家は会社から車で30分ほど離れている。
ということは、相手はタナカさんじゃないのか)
「そうですか……」
「男性の自宅に入り、数時間ほど滞在してから帰宅しています」
私は深くため息をつきました。
ここで話は終わるかと思ったその時──
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「男性は赤いオープンタイプのスポーツカーに乗っていました。心当たり、ありますか?」
「……あ..…あります!」
一瞬で、誰のことか分かりました。
「あいつか……あのクソガキ……!」
全身を怒りが駆け巡り、拳を握りしめながらも、私はなんとか冷静を装って言いました。
「その男は、おそらく会社にいた後輩です。名前は……ハシモトです」
信じられなかった。
自分でその名前を口にしたくなかった。
私が信頼していた後輩──
元妻が不倫していた相手は、私のよく知る、あのハシモトだったのです。
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