浮かび上がる名前

妻の不倫と離婚の記録

イチタニさんが見せてくれた調査報告書の事例は、想像以上に緻密でリアルなものでした。

・明け方、タクシーでラブホテルに入る男女
・複数台の車を持つ夫が、目立たない軽トラで女性と密会する姿

いずれも高解像度でばっちりと撮られていて、証拠としてこれ以上ないものだと感じました。

「この報告書で、裁判や示談でも十分戦えます」

プロの言葉は重く響きました。特に、決定的な証拠は「2回以上の不貞行為」であること、そして調査報告だけでなく示談の立ち会いや弁護士紹介までサポートしてくれるという点には安心感を覚えました。

さらにイチタニさんはこうも語りました。

「最近は、女性の浮気調査が圧倒的に増えています。SNSの普及で、昔の同級生や元恋人に再接触して…というのがきっかけになるケースが本当に多いんです」

聞きながら、何とも言えない気持ちになりました。

「やる人は、男でも女でもやる。つまり、それは“その人自身”の問題」

確かに。自分の妻も、きっとそういう人間なのだろう。

正式な依頼とヒアリング

「さて、どうしましょうか?」

そう言われて迷いはありませんでした。私は即答で「お願いします」と伝えました。

もしかすると、何社か話を聞いて比較するのが一般的なのかもしれません。でも、私にとっては“早く前に進むこと”が最優先でした。

その場で簡易的な契約を交わし、依頼者情報や妻に関する情報を記入するシートを渡されました。

事前に準備していた妻の顔写真もここで提出。

そして、記入欄の最後にこんな項目がありました。

「不貞相手として思い当たる人物」


「必ずしも当たっている必要はありません。けれど、不倫は“まったく無関係な誰か”とすることの方が珍しいです。職場、趣味の集まり、身近な交友関係……ちょっとでも引っかかる名前があれば、書いてください」

そう言われて、私はしばらく考えました。

(あの時、たまたま聞いた名前。妙に引っかかった)

ペンを持った手が一瞬止まった。思い浮かんだのは――タナカさん。

信じられない。いや、信じたくない。

かつて自分の直属の上司だった人間であり、自分たちの結婚式にも出席してくれた人だ。今は元妻の上司にあたる。
仕事ができる妻子持ちだが、女癖が悪く、社内の若い女性にはことごとく言い寄っているという。

さすがに私の妻にはありえない――でも、なんとなくひっかかる。頭の片隅にずっとひっかかっていた「なにか」。もしかしたら違和感はそのせいだったのかもしれない。

半信半疑、いや、むしろ「そうであってほしくない」という祈りに近い気持ちで、その名前を書いた。私は一つの名前を書きました。

書きながら、胸がざわついたのを覚えています。

(あいつ、だったら…)

次回、調査開始。少しずつ“黒”が姿を現し始めます。

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